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建産EYE
2014/08/22
前例のない難工事を克服することが私の誇り ~ツインタワーにかける意気込みを語る~
中之島フェスティバルタワーウエスト新築
竹中工務店大阪本店 総括作業所長 光枝良氏
大阪・中之島にそびえる超高層ビル、中之島フェスティバルタワーに続いて、ツインタワーとなる中之島フェスティバルタワー・ウエスト(仮称)が6月に着工した。2017年春に完成すると、四ツ橋筋をはさんで、高さ200mの超高層ビル2棟が並び立ち、ツインタワーとして大阪の新名所となる。竹中工務店が朝日新聞社の共同事業者として参画する当プロジェクトで、施工に携わる竹中工務店大阪本店の光枝良総括作業所長に建設にかける意気込みなどをお伺いしました。
――中之島フェスティバルタワーのフェスティバルホールは客席数2700席の多目的ホールですが、大ホールにもかかわらず、非常に音響効果にすぐれ、話題になりましたね。音楽ファンにとっては待ち望んでいたホールといえます。その音響効果の素晴らしさもさることながら、大ホールの上に超高層オフィスを建設するという離れ業をやられ、その技術力の高さに随分と驚かされました。
今回ツインタワーの2棟目を受注できたのは、1棟目の仕事を見て評価していただいた結果ですので、うれしさが込み上げてきます。確かに、旧フェスティバルホールは音響効果の高さで定評がありましたが、新ホールはそれを上回ることができ、満足しています。実に多くの音楽ファンの方々から高い評価をいただいています。客席数は旧ホールと同じですが、座席を広くし、ゆったりしてお座りいただけます。また客席が2階席までだったのが、3階席も設けましたので、天井が高くなり、音響面だけでなく、音楽ホールとしての風格と雰囲気とが一段と高まり、皆さんに喜んでいただいています。やはりムードというのは大変重要なことで、来場者の方々に満足していただくため、ホール以外にも顧客満足度を高めるため、いろんな工夫を盛り沢山しております。ただ単に、音楽やイベントを鑑賞するだけでなく、雰囲気も十分に味わっていただければ、幸いです。
前回のフェスティバルタワーも技術的にも非常に難しい建物でした。深さ86mの杭の打設や大ホールの上部に超高層オフィスを積み上げるため、メガトラスという非常に大きな鉄骨を組み込んだほか、中間層免震構造の施工など、いろんな新しい技術にチャレンジできたので、苦労は多かったものの、大変やりがいがありました。社内的にも非常に難しい工事だといわれ、多くの課題を掲げていましたので、最初は本当にできるのかと皆さん心配されていました。無事完成でき、お客様にも喜んでいただけたのでとてもうれしいです。
――旧朝日新聞社大阪本社社屋の解体に際しては、阪神高速道路が建物の中を通っているなど、いろいろとご苦労が多かったでしょうね。
今回、新築工事に先立って、阪神高速道路上部に位置する体育館部分を、昨年11月に阪神高速11号池田線のリフレッシュ工事に合わせて5日間で解体するという非常に難しい工事を行いました。高速道路の上部での建物の解体は日本で初めてのことです。前例がないため、周到な事前計画を立て、技術部門などにも支援してもらいながら実行しました。
5日間にわたって24時間一般車両の通行を止めて行うため、その時期を逃すと何年も先まで解体できなくなる可能性がありました。それだけに絶対に失敗は許されません。万が一、事故が起これば工事はストップしてしまい大変なことになるので、非常に神経を使いました。
――南北を河川にはさまれ、地盤が軟弱で、しかも高速道路や地下鉄が近接し、地下深くまで既存の建物があるという工事現場としては非常に条件の厳しい場所といえます。
敷地内に阪神高速道路が通っており、新築建物とは一番近いところで2mぐらいの距離しかありません。周辺は歩行者も非常に多く、制約が多い厳しい中での工事なので、飛来落下の防止の徹底など、前回よりさらに細心の注意を払わなければなりません。また既存の建物の地下が深く、地中障害物の撤去も大変です。
――中之島フェスティバルタワーでの実績を積んでおられるだけに、新しい技術にも挑戦しやすいでしょうね。第1棟は地上39階、地下3階なのに対し、第2棟のウエストは地上41階、地下4階となり、美術館や高級ホテルが入居するなど、それぞれに特色があり、特にウエストは朝日新聞社との共同事業として手がけられる。
ツインタワーの工事を担当できる機会はなかなかありません。このため中之島フェスティバルタワーでの良かった点、悪かった点を踏まえての仕事になりますから、その辺をフィードバックしながら仕事を進めていき、前回よりさらなるレベルアップをめざし、常に向上心を持ってチャレンジしていきたいと考えています。
――妥協を許さず、常にチャレンジ精神を発揮され、素晴らしいですね。竹中工務店の経営理念についてお聞かせください。
当社は1610年の創業ですが、経営理念に「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」を掲げ、手がける建築の一つひとつを「作品」と称し、丹精を込めてつくってきました。お客様満足によって、社会の信用を得て、企業の社会的価値を高めていく「品質経営」を貫いてきました。その経営理念の継承が身に備わってきたと言えるでしょう。日々、努力の積み重ねが必要だと思っています。
――所長としての誇り、やりがい、喜びについて、お話しいただけますか。
自分たちがつくった作品が何十年、何百年の長きにわたって、そこに残り、多くの人に愛され、使っていただくことに大変やりがいを感じます。責任も大きい半面、創意工夫を発揮し、誰もやったことのない難しい工事に挑戦できるのは非常に楽しく、おもしろく、男冥利に尽きると思いますよ。
――これまでの印象に残る工事はいかがでしょうか。
所長として担当した医科大学の附属病院、大規模ショッピングセンター、超高層オフィスビルのほか、ホテル、生保会社のコンピュータセンター、大学キャンパス整備など、いろいろな建物種別の工事を担当してきました。中でも特に印象的だったのは、街の中の商業施設に観覧車をつくるという、当時は誰もやったことがない難しい仕事をやらせていただけたのが非常に楽しかったし、おもしろかったですね。私は入社以来、技術部などの内勤部門と、作業所との経験年数が半々ぐらいの割合で、どちらも体験できたことが自分にとって大いにプラスになっていると思います。
――日本の建設産業を今後、大きく発展させていくためには、現場から見て何が必要だと思われますか。
当社にとどまらず、土木、建築の業界全体の関係者がこぞって仕事にやりがいやプライドを持つことが重要です。若い人が建設業に入りたいと思えるような環境にしていくことですね。
――協力会社や職人のモチベーションを高めるために、いろいろご努力されていることをお聞かせください。
今回は作業所スローガンとして「見せる仕事を魅せる現場から」を掲げています。「見せる仕事」とは自分たちの仕事に誇りを持って、お客様や第三者に堂々と胸を張って見てもらえる仕事です。「魅せる現場」とは作業員が、この作業所で働きたいと思うような魅力ある現場をつくっていくことです。
「もっと安全に」「もっと快適に」「もっと親切に」「もっと楽しく」を作業所モットーとし、職人さんにも魅力を感じてもらえるようにしていきたいと考えています。私がやっているのは一作業所ですが、それをもっと広げていくことで、建設業全体を魅力や活気のある職場にしていきたいと思っています。
――職人不足が深刻なようですが、どのように対応していかれますか。
ここでできることと、業界全体で取り組むことがあると思います。作業所においては、仕事の中身を分析して、例えば大工さんの仕事であれば、大工さんにしかできない仕事と、材料を運んだりするなど、他の職種の人にもできる仕事に分業する。少しでも施工効率を上げて、職人不足に対応していくことが重要です。前回もボード工が非常に不足していたのですが、ボードを張る作業を型枠大工さんに分担してもらうなど、業種にとらわれずにいろんな組み合わせの中で、常に最適化を図っていく努力を続けていく必要があると思います。
――業務上の施工ミスや労働災害防止のポイントは何でしょうか。
できるだけたくさんの目で見ることだと思います。そのためには、一人ひとりがそういう意識を持って仕事をすることが大切です。人間がやることなのでどうしてもミスや見落としが起きるので、それを防ぐために会社の組織をうまく活用して、最終的に防止することだと思います。
――専門工事業者や職人に対する要望があればお聞かせください。
専門工事業者としての知識や技術をさらに高めていく日々の努力を続けてほしいですね。それを彼ら任せにするのではなく、当社も一緒になって引き上げていきたいと思っています。職人としてのプライドを持って仕事ができる環境を、当社や業界が一緒につくり出していくことが必要です。いくら働いても給料が安くては、プライドを持てといってもなかなか難しいと思います。一人前になったということをきちんと評価できる仕組みが必要だと思います。
――業界紙に対するご意見などありましたらお聞かせください。
若い人たちが魅力を感じるような技術の紹介や、業界そのものが活性化するような記事をたくさん載せてもらえたらと思います。業界紙というのは業界の人しか読まないという印象が強いですが、一般紙や雑誌などとタイアップして、建設業界の魅力を紹介していただけたらいいなと思います。
――どうもありがとうございました。
【プロフィール】
光枝良(みつえだ・りょう)=1959年生まれ。奈良県出身。京都大学工学部建築学科大学院修了。1984年竹中工務店入社。