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建産EYE
2014/07/24
トンネル工事の未来を先取りする モデル的な職場環境を展開
新名神高速道路 箕面トンネル東作業所長
三隅宏明氏に聞く
関西を代表するビッグプロジェクトである新名神高速道路で最長の箕面トンネルの建設工事が目下、急ピッチで進められています。低土被りの河川の下を構築する屈指の難工事でもある。その箕面トンネルの東工事現場で「安全はキレイであいさつのある現場から」を掲げ、土木建設現場の未来を先取りするモデル的な最新技術に加え、安全と理想の職場環境を展開する大成建設関西支店作業所長の三隅宏明氏をお訪ねし、常に改革、改善に向け挑戦する施策をお伺いすることにしました。
――高速道路の渋滞緩和のため、高槻から神戸に至る延長40・5kmの新名神高速道路の建設が進められており、箕面トンネル東工事は非常な難工事だけに、ご苦労が多い半面、随分とやりがいもあるでしょうね。
この現場は関西ナンバーワンのビッグプロジェクトと言われる新名神高速道路工事の中でも、確かに難工事であり、そのような工事に携われることができ、非常に恵まれていると思います。東工事はトンネル延長が2100mであり、現在は1100mまで掘削が進んでいます。このトンネルは勝尾寺川の下に構築するので、川周辺の水環境への影響がないように〝ウォータータイト構造〟を採用しており、道路トンネルでは日本で2番目の高水圧下になる極めて難しいトンネル工事に入ると思います。それだけに作業にあたっては技術や安全、環境などあらゆる面で最大限の努力を重ねています。
――技術面はもとより、作業環境面から見ても非常に難しい工事といえますが、それを感じさせない理想的な作業現場が形成されています。関係者の間でも非常に革新的で、しかも斬新な建設現場として話題になっていますね。常にチャレンジ精神を持ち続け、その集大成といえるのではないでしょうか。
私は現在54歳で、所長歴も長いのですが、より一層高い評価を得られる現場づくりに果敢に取り組み、行動しています。しかも最近は、発注者が工事成績評定点をつけて評価するので、高得点がいただけるように頑張ろうとの意欲を助長させてくれます。一方、安全についても、社内外の受賞を目指して、頑張っています。
――目標を明確に立て、行動しておられるのは素晴らしいことですね。過去に随分多くのトンネル工事に携わってこられましたが、印象に残る主な工事をお教えいただけますか。
27年間の現場経験で、これまで手がけてきたうちの印象に残る主な仕事としては、まず新入社員当時に担当した近鉄東大阪線生駒トンネルから始まり、名神高速道路天王山トンネル、奈良県大峠トンネル、第二名神高速道路甲南トンネル、兵庫県とりがたわトンネルなど関西方面で従事した後、6年前、山口の萩・三隅道路青海第1トンネル工事を担当しました。私は山口県宇部市出身ですので、偶然私の姓が入った道路でもあり、故郷に錦が飾れたかなと思い感慨深かったですね。
――幾多の現場経験を積み重ねてこられましたが、今後の建設業界の発展のためには何が必要だと感じますか。
何と言っても魅力ある産業に育て上げることが第一でしょうね。それには給料を良くすると同時に、きれいな仕事場にしていく必要があると思います。
――トンネルが長いと坑内環境を安定させるのが難しいと聞きますが。
確かにトンネル延長が長いほど坑内環境は劣悪になってきます。従って、この現場では、ダンプトラックを使用せず、連続ベルトコンベアで掘削ずりを坑口まで搬出しています。これによって排気ガスや粉塵が抑えられ、安全性・坑内環境の向上が図れます。換気システムにも工夫を凝らし、粉塵が坑内に飛散しないようにしています。また路盤泥濘防止のために、仮の排水を入れて地下水位を下げ、路盤をドライにして、革靴でも入れるようにしています。
――作業環境改善には随分入れ込んでおられ、大成建設、とりわけ三隅所長の現場はより清潔感に満ち、健康管理面でもモデル職場としての評判が高いですね。
作業着が汚れると仕事が雑になり、安全や品質も低下します。坑内をきれいにすることで気持ちよく仕事ができる環境づくりに結びつきます。多少の費用はかかりますが、モチベーションを上げることにもつながります。また〝働く人にやさしく〟の考えから、エアーシャワーによる粉塵除去装置を設置しています。休憩所はゴーヤのグリーンカーテンで覆い、生きた植物を眺めながら休憩でき、心がいやせる工夫をしており、当作業所にとって自慢の設備です。熱中症対策として、スポーツドリンクやアイスキャンデーを6月から9月は飲み放題・食べ放題にしています。また真夏の現場のトイレはサウナ状態になりますが、各トイレにスポットクーラーを設置し、涼しく用が足せるよう配慮しています。これも作業をする人が少しでも気持ちよく働けるための工夫です。
――業務上の施工ミスや労働災害の防止に、間接的な施策で効果を上げておられるとか。
この現場の安全の基本方針を「安全はキレイであいさつのある現場から」としています。これをきっちりできる人は不安全行動をしないと考えています。この標語を入れた当作業所オリジナルのタオルとTシャツをつくり、作業員の皆さんに配布して、徹底しています。
――確かに汚れていれば、落ち込んだ気分になり、プラス思考が薄れ、士気の低下を招くでしょうね。それにお互いが挨拶を交わし、声を掛け合えば、職場の規律が保たれ、礼儀正しい行動に結びついていき、そこからお互いの信頼感も高まる、いいこと尽くめですね。一般的には日頃の忙しさに追われ、こうしたことが見逃されがちですね。
建設業で起きる事故の原因の9割が不安全行動によるものです。「あれをするな、これをするな」と押し付けがましく言っても、成果は長続きしません。やはり効果的に不安全行動をとらないようにするには、不安全行動をしてはいけないという気持ちにさせることが重要です。それには、まずきれいな現場が基本だと思います。汚い現場にいると、不安全行動をしても仕方がないような気持ちになりがちです。それと挨拶がきちんとできる人は、自分の行動に責任を持っており、安全帯のフックを確実に掛けるなど安全対策も正確にできています。安全注意事項を伝えた時もそういう人は素直に聞く耳を持っています。「高所では安全帯を掛けなさい」と言われなくても、ちゃんとやっています。キレイで、あいさつができる。そういうことを徹底することによって不安全行動はなくせる。そういう信念でやっています。
――職場の規律が保たれているにも関わらず、何か明るい雰囲気が漂っています。特別方策があるのですか。
現場では気に入らないことがたくさんあると、むすっとしてしまうでしょ。それは変えていかないとだめだと思いました。「挨拶しろ」と言っている所長がむすっとしていると言われたことがありましたので、私も大きな声で挨拶するように心がけています。
――何事も率先垂範が大事ですね。ところで、大成建設が誇れることは何でしょうか。
当社には事業所運営の指針となる「工場十訓」があります。大成建設の前身である大倉土木の専務だった横山信毅氏が1929年に建設業に携わる者の心構えを歌十首として読んだものです。現在も支店や全作業所に掲示されています。発注者の方にも言われるのですが、当社には、発注者や地元の方々に真摯に対応する社風があり、それが誇れるところだと思っています。
――具体的にはどういう内容ですか。
【工場十訓】とは、先に歌十首といいましたが、次の10項目からなっています。
一、始めこそ準備の甲斐はあるものを 手後れするな思案第一
二、大局は忘れがちなりこころせよ されど小事に油断せずして
三、親切に真心こめてはたらけば 渡る世間はみな仏なり
四、責任はおもきものなり後の世に のこる仕事の恥をさらすな
五、職工は仕事の宝こころして けがわづらいをさせぬ用心
六、上下のへだてはあれどまんまるく 規律のうちに仲をよくして
七、何事も工夫をこらして進めかし 無駄をはぶけば上下繁昌
八、順序よくものととのえば自から よき働きはすすみこそすれ
九、約束を守るところに信用の 花は咲くなり実は結ぶなり
十、終わりこそ大事なりけり丁寧に 清めてわたし跡をにごすな
これを念頭に置き、常に意識して行動しています。
――経営にしろ、音楽、スポーツの世界にしても基礎が大変大事です。大成建設にとっては、経営の基本と言えるもので、脈々と受け継がれているのは素晴らしいですね。大成建設の所長の方々に共通した誇りは何でしょうか。
世間の通常の所長は支店にお伺いを立てないと判断できないことが多いと思いますが、当社の所長はある程度裁量を任されています。この現場では、私は1つの会社の社長をしているというつもりでやっているので、やりがいを感じます。
――ありがとうございました。