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建産EYE
2014/12/12
お客様からの感謝の言葉が大きな喜びに
鴻池組大阪本店
豊中市伊丹市ごみ焼却施設建設工事
所長 葛島寿二氏
国内線が頻繁に飛び交う大阪空港の近くで、緑がいっぱいの世界的にもモデルとなる最新鋭の大型ごみ焼却施設の建設が進められています。「森の中の再生工場」と名付けられるそのプロジェクトの新設建屋建設の陣頭指揮をする葛島寿二所長にそのユニークな采配ぶりなどについてお伺いしました。
――現在のお仕事と今日までの実績はいかがでしょうか。
豊中市と伊丹市の現行ごみ処理施設老朽化に伴って計画された、同施設内の既存建物解体から新焼却施設建設までを行うプロジェクトの新設建屋建設の現場所長として日夜業務に励んでいます。
ごみ焼却施設の建設というのは、プラント施設と共に建物を作り上げていかなければいけないので、工程調整が非常に大切になってきます。
私は、以前にも同様のプロジェクトを経験しており、その経験を買われ今回のプロジェクトを担当することになりました。この工事を一度経験しているかいないかでは、工事を進める上で大きく違ってくると思います。
――所長としての重責を担っておられ、自信に満ちた感じを受けます。それはどの辺りからくるのでしょうか。
44歳で初めて現場所長になり、現在の現場は所長として担当する二つ目となります。所長としてはまだ若輩かもしれませんが、次席としては、いろんな分野を経験しました。大学キャンパス、ごみ焼却施設、PCB処理施設、室内温水プール、駅前再開発と様々な用途の建築物を担当しました。これらの経験があって、今の自分があると思います。
――鴻池組の歴史と伝統についてお聞かせください。
鴻池組は廃藩置県によって、日本が近代国家への第一歩を踏み出した1871年(明治4年)に現在の大阪市此花区で創業しました。「誠実」「懇切」「敏速」を社是三則とし、建設事業を通じお客様に満足いただくこと、社会へ貢献していくことを目指してきました。
――鴻池組が会社として誇れることは何でしょうか。
当社の社是である「誠実・懇切・敏速」からもわかるとおり、我が国で「顧客満足」という言葉が社会に浸透するずっと以前から、「お客様を第一に考える」姿勢を貫いてきたことではないでしょうか。
昨年の初めに新たな「経営理念」が策定され、この姿勢はより鮮明に社内外に向けて打ち出されましたが、さらに本年度より建築部門においては「CR(Customer Relation)活動」という形でマニュアル化、組織化され、経営理念の実践展開に向けて、全役職員が心ひとつにしているところです。
――鴻池組の所長の方々に共通した誇りは何でしょうか。
どんな困難があろうとも、当社職員と協力会社が一丸となり、品質面で妥協することなく、建物を工期内にお引渡しできていること、どの所長もその点に最も誇りを感じているのではないでしょうか。
現在、当社においては、当社と協力会社を合わせて「チームKONOIKE」と呼んでおり、チーム・スローガンとして「最高の現場力をもってお客様の笑顔を最大に!」を掲げていますが、この「最高の現場力」の発露というか成果として最も端的なものが「工期内引渡し」だと考えます。
もちろんこれは協力会社の協力なしに成し得ることではありませんので、どの所長も誇りに思うと同時に、協力会社の皆さんに対して深い感謝の念を持っていると思います。
――ご自身の誇りは何でしょうか。
予定工期内にお客様に建物をお引渡しするプロセスには、それぞれの段階において難関がいくつもあります。工事中は辛いこと、頭を悩ませることも多くありますが、それらを一つ一つクリアしてやっと工事を完成させ、お引渡しの際にお客様から感謝の言葉をいただいた時には、それまでの苦労が吹き飛んでしまうほどの大きな喜びを感じます。
これまでにいただいたお客様からの感謝の言葉、その蓄積こそが私の「誇り」ですし、それがあるからこそ、もっと難しい工事にもチャレンジしてみたいという「意欲」がわいてくるのだと思います。
――日本の建設産業を発展させるためには、現場から見て何が必要だと思われますか。
建設業は生活の基本である「衣・食・住」の「住」を担う魅力ある業種であることを、世間一般にもっとわかってもらうことが一番だと思います。先ほどもお話ししたように、多くの人に感謝の言葉がもらえたり、工夫の成果がダイレクトに現われたりと、実際に働いてみると「働き甲斐」に満ちた産業なのですが、そうした内実は十分に伝わっていません。
若い世代に建設業の魅力を伝え、就業者を増やし、技術を継承していくプロセスを経て、ようやく建設産業は活性化すると思います。
現場担当者にとって最終的な目標は所長になることで、それが一番の魅力ですから、若い人にも「今はしんどくても所長になったらもっとがんばれる」というところを見せてあげたいと思っています。
また、建設業は景気に非常に左右される業種です。現在はアベノミクスによる財政出動で一時的に持ち直しつつありますが、この間に民間の設備投資を促す政策等の推進によって安定的な建設市場を創出しないと、就業者は増えていかないのではないかと思います。
――職人不足に短期的、長期的にどのように対応していかれますか。
外国人労働者を多く採用することで、短期的には人材不足は解消されるかもしれませんが、根本的な解決策とは言い難い面があります。
世界有数の地震多発国という環境的要因もあり、日本の建築技術は世界トップレベルですが、他産業の生産技術等と異なり、その高い建築技術を支えているのは、一部の技術者の頭脳やコンピューターでなく、多くの真面目な「技能者」の力です。
したがって、その技術力を維持するためには、やはり多くの若い人材が建設業界に入職してもらう必要があると思います。そのためにも、先ほど述べた『魅力ある建設業』のイメージを浸透させることが重要だと考えます。
――協力会社や職人のモチベーションを高めるためにいろいろ努力していることは。
協力会社さん、職人さんとのコミュこニケーションを大切にすることに注力しています。一例として、ヘルメットの前後に名前を貼り、すべての職人さんを名前で呼ぶようにしています。呼んだ方も呼ばれた方も親近感が芽生えてお互いしゃべりやすくなり、現場に対するモチベーションも目に見えて違ってきます。
また、工事の節目には職長会を主体として親睦会を主催し、職長さんの労をねぎらうとともに、職長さんと当社若手職員間、また協力会社間のコミュニケーションを深めることで、「チームKONOIKE」の連帯感アップに努めています。
――業務上の施工ミスや労働災害防止のポイントは何でしょうか。
建設現場においては、すべて『人』の手による現地生産が行われています。また、品質上、天候にも左右されます。職人さんそれぞれの技量も違う中でものづくりをするわけですから、間違いは必ず起こります。それをどこまで少なくしていけるかに「管理」のポイントがあるわけですが、当現場の場合、工事に着手する前に、必ず職長さんに工事でのポイントを確認することで、意思統一をして工事に着工してもらいます。さらに、着工した次の日の朝、必ず現地確認を行い、打ち合わせと相違ないか確認することで、ミスを防いでいます。
労働災害防止に向けた安全管理ですが、「P・D・C・A」のサイクルを確立させるとともに、不安全行動を決して見逃さないことが重要です。そのためにも、当社スローガンにもある『周りに一声、自分に対して一呼吸』の周知を図り、業者間の隔たりなくみんなで声をかけ合う環境をつくることに努めています。
――専門工事業者や職人に対する要望があれば聞かせてください。
いろんな職長さんと話す機会がありますが、どの職長さんも自分の子供には同じ道に進んでほしくないと言われます。このことは、建設業の未来が危機的であることを端的に示していると思います。
何度も申し上げますが、こうした声を聞くたびに、やはり『魅力ある建設業』にしなければいけないと痛感するのです。すばらしい技術を持った専門工事業者さん、職人さんには、その腕、経験に見合った報酬を得ていただき、ぜひ自分の子供に職業を誇ってほしい。そして「俺の後を継げ」と言ってほしいのです。
私の実家は工務店を経営しており、建物をつくることがおもしろそうなので建設業に入りました。大きな建物を建てることが幼少からの夢でした。子供が父親の背中を見て、その職に就きたいと思えるようでなければならないと強く感じています。
――ありがとうございました。
【プロフィール】
葛島寿二(くずしま・ひさじ)=1968年生まれ。兵庫県出身。福山大学建築学科卒。1991年鴻池組入社。